2006年07月06日
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オルランド最大のライバル、幻影のサリー人

Written By: 遠野秋彦連絡先

 オルランド史上、オルランド最大のライバルとされるのはサリー人である。

 オルランドはもともとテクノロジー先行集団としての性質を持っており、ほとんどのケースで周囲のどの人間集団よりも高度なテクノロジーを保有していた。それは、軍事力の圧倒的な優位性を意味するだけではない。そもそも一発も撃たずして問題を解決してしまうことも意味する。実は、オルランドの兵器とは、撃つためのものというよりも、見せるためのものという側面が強いのだ。

 事実として、オルランドの技術力は、銀河三重衝突事件の頃には既に、砲身(加速器)不要のビーム発射機であるとか、噴射口不要の推進システムなどの技術を確立していた。その時点で、最も優れた宇宙艦の形状は球体であるという研究結果も出されていた。

 それにも関わらず、オルランド宇宙軍が、祖国防衛戦争(オーバーキルウォー)の時代と変わらないシルエットを持つ兵器の運用を続けた。その理由はいろいろあるとされるが、その1つは、技術水準の劣る人々に対しても、撃たずして凶悪な兵器であることを分からせ、撃たずに問題を収拾する助けにあるとされる。

 つまり、オルランドは、宇宙艦に最善の形状を与えないで圧倒的に状況を乗り切れるだけのテクノロジー優越があったわけである。

 そして、この状況を根底からひっくり返したのがサリー人との遭遇ということになる。

 サリー人のテクノロジー水準は、オルランドと同程度であり、圧倒的なテクノロジー優越を背景にした「撃たずして問題を解決する」という方法論が使えない相手だったのだ。

 もちろん、オルランドがそのような相手に遭遇したことがないわけではない。事実として、しばしば出現するオルランドからの脱走者は、オルランドの装備を持ち出すために、同レベルのテクノロジーを持つ兵器の衝突が発生する。しかし、その場合は、極少数(たいていは一人)の脱走者が扱う少数の兵器を多数の追跡部隊が追いつめる形になり、テクノロジーは同等でも圧倒的な数の優劣が発生する。

 一方、サリー人は、大帝国とも呼びうる広大な版図を持ち、オルランドに匹敵する大艦隊を保有していた。サリー人と向き合うオルランドは、数の優越も得られなかったのだ。

 だが、サリー人がオルランド最大のライバルとされるのは、軍事力の拮抗だけが理由ではない。むしろ、それは副次的な理由に過ぎない。オルランドが男社会であるのに対して、サリー人は女社会であるという点で、両者は全く対照的なのである。

 過去の不幸な経緯により男だけの集団となったオルランドに対して、サリー人は徹底的に男性の存在意義を否定した女性上位社会になっていた。オルランドはハイプ(ハイパー・アンドロイド)という女の形をした存在を従属させていたが、サリー人は人権を与えられず家畜扱いされた男達を従属させていた。

 さて、ここで確認しておく価値があることは、オルランドはけしてサリー人の男達を隷属の立場から解放するためにサリー人との戦争を始めたわけではないという事実である。オルランドは、自らが決めた介入規則を厳格に遵守しており、その規則に当てはまらないケースでは、調査のために誰かを派遣することはあっても、軍事力を投入することはあり得ない話だったのだ。

 それにも関わらず軍事衝突が発生した理由は、サリー人側にある。徹底的に女性上位を貫くサリー人の宗教観から見れば、男性だけの集団であるオルランドはあってはならない存在だったのだ。いや、それは宗教観の問題ではないのかもしれない。もしも、サリー人の男達が、男性が女性に優越する社会の存在を知ってしまったら、女達に反乱を引き起こすかもしれないのだ。もちろん、彼女らはそのような反乱を鎮圧するだけの力を持っていただろう。だが、鎮圧される前に、不幸な女性が男達に犯される事件は起こるかもしれない。サリー人社会では、男性との性行為を持つことは、全人格の否定とも言える最大級の屈辱行為とされていたのだ。それは、けしてあってはならないことだった。

 いずれにせよ、事実としてオルランドとサリー人の最初の遭遇から僅か数ヶ月で、サリー人はオルランド殲滅のための軍事行動を開始している。

 さて、ここで繰り返し提示される疑問は、サリー人という存在にまつわる不透明さである。

 これだけ高度なテクノロジーを持った集団が、極めて長期間存在を知られていなかったというのがまず異常である。

 また、男と女が性行為を行って子をなすという人間に基本構造を否定するような社会が大帝国を築きうるのか、という疑問もある。

 そして、オルランドの逆を行く女性上位社会がオルランドの前に立ちふさがるという構図は、あまりにも出来すぎだというのである。

 つまり、サリー人とは、銀河三重衝突事件と同様に、何者かが仕組んだオルランドに対する挑戦、あるいは嫌がらせであるという説が出てくるのである。

 では、サリー人とは人為的な操作無しには存在し得ない人種なのだろうか。

 必ずしもそうとは言えない。

 地球人を始祖とする「人類」の末裔は、宇宙のあちこちに生きていて、それらの圧倒的大多数はオルランドから見て未知であるとすら言われる。サリー人がずっと見逃されていたからといって、それがあり得ないとまでは言い切れないのである。

 しかし、1つだけ確かなことはある。

 サリー人社会は極短期間で完全に崩壊し、高度なテクノロジーは失われ、蛮族が支配する領域と化した。

 テクノロジーと物量をぶつけ合う軍事力の決戦を望んで挑発してきたサリー宇宙軍に対して、オルランドは決戦を避けつつサリー社会そのものを不安定化させる作戦を執ったためだ。オルランドは、大艦隊に主砲斉射させる代わりに、ハイパー・アンドロイド、アヤとその部下のセックス・エリートのハイプ達をサリー人社会に潜入させ、男女が愛し合うことの素晴らしさを伝道させた。

 それは、ティーンエイジャーに対して行う基本的な性教育の域を超えるものではなかったとされる。

 だが、基本的であるがゆえに有効性は高かったようだ。この伝道された者は自らが伝道師となり、更に思想を広めた。伝道師はねずみ算式に数を増やし、瞬く間にサリー人社会の秩序を転覆させていったのだ。

 つまり、どのように解釈するにせよ、サリー人社会とは僅かな刺激で自己崩壊する萌芽を含んだ不安定な社会であったという事実に変わりはない。そして、崩壊後の社会はサリー人社会の特徴を持たず、もはや彼らがサリー人と呼ばれることはなかった。

 カゲロウのようにはかないサリー人であればこそ、オルランド最大のライバルという幻影も長期間維持できていると見るべきなのかもしれない。

(遠野秋彦・作 ©2006 TOHNO, Akihiko)

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